フィールド調査

 情報探索入門では、調査の「現地」を実際に訪れて行う「フィールド調査」を行うことが必須の課題です。しかし、フィールド調査と一口に言っても、ただ漫然と現地を訪問しただけでは、「調査」と呼べるような成果はあげられません。また、フィールド調査は 自分たちだけで完結するものではなく、必然的に「現地」の社会や人々との色々な接触を伴います。それゆえ、フィールド調査には、調査を進めていく上で、相手への様々な配慮が必要になります。ここでは、フィールド調査の様々な技法の中でも、おそらく皆さんの活動として中心的なものになると思われる「参与観察」と「インタビュー」の技法について解説していきます。

 

1.参与観察

1-1 参与観察とは何か
 観察法という社会調査の方法があります。どのような方法でしょうか。一般的な定義で言うと、「視覚を中心にして調査者が調査対象者を直接的に把握し、記述する方法を総称して観察法という」ことになります(北沢・古賀編、1997:28)。この観察法には、色々な種類や分類がありますが、この観察法の中でも、「調査者が対象者の生活する社会や集団に参加し(…)彼らの視点から対象社会の構造や対象者の解釈過程を観察しようとする方法」(前掲書、29)を「参与観察法」と呼びます。
 簡単に言えば、参与観察とは、調査対象となる現場へ実際に行き、そこで生活・活動する人たちとの様々な接触を通じて、彼ら・彼女らの視点にできるだけ近づきながら、現場のリアリティを観察・記述する方法だといえるでしょう(全然簡単に言ってない??)。定義を聞くより、実際の参与観察の成果を見てみたいという人には、佐藤郁哉氏の著作「暴走族のエスノグラフィー」(新曜社、1984年)が特におすすめです。「暴走族」という社会に実際に「参与」しながら、暴走族の世界を内側から具体的に描いた名著です。
 

1-2 参与観察のタイプ
 この参与観察は、その観察者の位置づけによって、幾つかのタイプに分けることができます。     

完全なる
参加者

観察者としての
参加者
参加者としての
観察者
完全なる
観察者
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参与観察者のタイプ(佐藤,2002:69)

 分類はあくまで分類であって、ひとつの調査でも進展していくうちに性格が変わることもあります。が、とりあえず、ここではどのような調査がどのタイプにあたるのかを把握できるようにしておきましょう。まず、「完全なる参加者」として行う参与観察の場合は、調査者は対象となる社会に完全に参加していて、周りからも自分が「観察者」であるとはみなされません。たとえば、「ファーストフード店における仕事の構造」を調査テーマとした人が、実際にファーストフードのお店でバイトしている場合などはこれにあたるでしょう。次に、「観察者としての参加者」として行う参与観察では、調査者が調査目的でその場にいることは対象者に知られています。先に紹介した、佐藤氏の「暴走族」の参与観察はこのタイプになります。3つ目の「参加者としての観察者」はどうでしょうか。この場合は、調査者の活動の中心は観察であり、参加は最小限にとどまります。インタビューやアンケートといった明確な目的を持って現場へ行き、そこで調査者として主に振る舞いながら、単発的な参加のみで帰ってくるような場合です。最後の「完全なる観察者」は、どちらかといえば「視察」に近いもので、現地の人々との接触をまったくもたずに、訪問者・旅行者のようにその場を観察してくる場合です。
 もちろん、先に述べたように、ひとつの調査がこの分類をまたいで変化していくことはしばしばあります。「完全なる観察者」として行ったつもりが、何かのきっかけでその場の人々と接触し、次第に「観察者としての参加者」になることなどもありうるでしょう。というよりもむしろ、調査を行うときには、それぞれの調査の段階に応じて、上記の4つのタイプを柔軟に移行しながら、観察を続けていくことが重要になります。いずれにせよ、上記の分類を知っておくことで、自分が今どのような調査活動をしているのかを明確にできますので、調査計画を立てるとき、実際に調査に行ったときには、この分類を意識してみると良いでしょう。


1-3 参与観察の実際
○インフォマントを探す
 参与観察でデータを集めるときに最も有力なのは、「人に話を聞く」という方法です。この点についての詳しい解説は、「2.インタビュー調査」の項目で述べますが、ここでは、どのようにして話を聞く人(情報提供者=インフォマント)を探すかという点について簡単に述べておきます。
 いきなりがっかりさせるようで申し訳ないですが、 「インフォマント」を探すのに「王道」はありません。原則的には、調査フィールドへ入って、現地の状況に詳しい人、調査テーマに関する事情通を探すということになります。あらかじめ、そうした「事情通」がわかっている場合には、その特定の人にインタビューを依頼するのも良いですが、わからない場合には、あらゆる人を「インフォマント」として位置づけ、その知り合いのネットワークをたどりながら、次第に有効なインフォマントにたどりつくという方法が取られます。こうした方法は「雪だるま式標本法(スノーボール・サンプリング」として知られるものです(北沢・古賀、1997:30)
 もちろん、厳密な意味での参与観察からは外れますが、特定の地域でいわゆる「街頭インタビュー」をすることも一つの方法ではありますし、場合によっては、「知り合い」や「友人」を調査対象としたり、「知り合い」や「友人」のつてをたどって有力なインフォマントに行き着くといったことなども考えられるでしょう。実際には、調査テーマによって、インフォマント獲得の方法は変わってきますので、それについては、調査プロジェクトを進展させながら、随時教員に相談して下さい。

○現場の記録を取る
 参与観察ですべきことは、もちろんインタビューだけではありません。現場を文字通り「目」で観察し、記録を付けることも重要な調査活動のひとつです。方法としては、一番基本的なものとして、「現場メモ」があります。紙と鉛筆を用意して、現場でメモをつけるわけです。現場メモの目的は、メモを通じて、後から「現場」をできるだけ正確に再現できるようにすることです。しかし、よく指摘されるように、「メモを取る」という行動は、現場の状況にとって、なにやら「怪しいもの」であることも多々あります。そうした場合には、周りの人々迷惑をかけたり、不要な警戒心を与えないように、いったん現場を離れてからメモを取るなど、実際的な対応を臨機応変にとって下さい。また、写真を撮影する場合にも同じことが言えます。そもそも写真撮影が許されていない場もありますし、特に禁止されていなくても、店内や人の家を覗き込むようにして写真を撮っていれば、間違いなく怪しまれるでしょう。当たり前のことですが、調査を進めていく上では、こうした点に十分注意する必要があります。基本的な認識として、「調査者」は調査の現場にとって、よそ者であることを理解しておく必要があります。現場の記録に際してのトラブルには色々なものが考えられますが、そうしたトラブルはモラル上の問題になると同時に、調査の続行自体を不可能にしてしまうものです。できるだけ豊富な記録を残すことは調査にとってとても重要なことですが、それ以前に、調査対象となる現場とそこにいる人々に迷惑をかけないということが、調査上の最低限のルールです。

 

 

2.インタビュー調査

2-1 インタビューを想像してみよう
 まずは、皆さんそれぞれの調査フィールドを思い浮かべ、そこに出かけていった自分たちを想像して下さい。コンビニ、大学の情報関連施設、市民団体の活動の場、地域の公園、お店…。そこには、色々な人がいて、色々な活動をしています。皆さんは、とりあえずは漠然とした問題意識と関心をもって、そこへ出かけました。では、そこで早速「インタビュー調査」をやってみて下さい!! 

    すらすらとインタビューをしている自分が想像できますか???

 できないと思います。できた人は、「現地」の複雑さをまだよく実感できていない人だと思います。まず、何を聞けばいいのか。そして、誰に聞けばいいのか。さらには、どのような聞き方をすればいいのか。調査の初期段階では、これらのことが明確になっていません。では、そうしたなかで、どのようにインタビューを進めていけば良いのでしょうか。

 

2-2 聞き取り調査の種類
 
この点について考えるための予備知識として、聞き取り調査には、大きく分けて次の二つの方法があることを知っておきましょう。

1.フォーマル・インタビュー(指示的面接法)
  インタビューの手続きがあらかじめ標準化されているものを言います。具体的には、インタビューでの質問項目、質問順序を事前に決めておき、現場ではそれに従って一問一答式でインタビューを進めていくことになります。

2.インフォーマル・インタビュー(非指示的面接法)
 逆に、インフォーマル・インタビューでは、インタビューの手続きは標準化されていません。インフォーマル・インタビューでは、多くの場合、質問項目もあらかじめ決まっているわけではなく、質問者が臨機応変に変えながらインタビューを行っていきます。

 さて、インタビューといって一般的にイメージされるのは、一問一答式のフォーマル・インタビューでしょう。これは、どちらが質問者でどちらが回答者であるかという「立場」がはじめから明確で、質問も一問一答式で次々に用意されているわけですから、回答者も「これはインタビューである」ということを明確に理解できます。しかし、この一問一答式のフォーマル・インタビューは、事前に周到な用意をしていないと実際に行うことはできません。実を言うと、さきほど、「インタビューしている自分」を想像できなかったのは、まさにこのフォーマル・インタビューが、いきなり現地に行ってすぐできるものではない!からなのです。
 そこで、フィールド調査を行う上では、2のインフォーマル・インタビューが重要な意味を持つことになります。意外に思うかもしれませんが、立派な社会調査の手法として認められているにもかかわらず、インフォーマル・インタビューには、いわゆる「インタビュー」としては通常考えられていない、対象者との様々なコミュニケーションが含まれます。たとえば、そこには、特にインタビューとしては意識されない、日常的な会話や、無駄話、あるいはその場に居合わせた人々の「問わず語り」といったものまでが含まれます(佐藤、2002,p.223)。では、なぜ、一見すると、非常に雑多で、厳密な手法とは言えないこうしたインフォーマル・インタビューが重要な意味を持つのでしょうか?
 この点を理解するには、上で見た二つのインタビュー手法には、それぞれ異なる役割があるということを知っておく必要があります。思い切って単純化してしまえば、二つのインタビュー手法は、それぞれ次のような違う目的を持っています。

 インフォーマル・インタビュー:調査課題を発見、具体化し、自分たちの「問い」を明確化するために行う。
 フォーマル・インタビュー:調査課題についての自分たちの仮説(予想)が当たっているかを検証するために行う。

 

2-3 インフォーマル・インタビューの有効性
 さて、勘の良い人はもう気づいたかもしれません。そうです。インフォーマル・インタビューは、さきほど自分のインタビューの姿を想像してもらったときに問題になった、「何を聞けばいいのか」「誰にきけばいいのか」「どのように聞けばいいのか」といった、具体的な調査課題それ自体を明らかにしていく上で、非常に重要で有効な方法なのです。
 たとえば、次のような調査を想像してみましょう。テーマは「地域の公園の利用」についてです。まずは、インタビュー調査に先立って皆さんは地域の公園を幾つか観察に出かけました。その結果、公園Aにはたくさんの人が集まるのに、公園Bにはあまり人がこないことが分かりました。皆さんは、その理由を知りたいと思いました。すぐに思いつく理由としては、たとえば「立地条件」「公園の設備の充実度」などが思いつくでしょう。この二点なら、聞くのはそう難しくなさそうです。そこで、皆さんは、「インフォーマル・インタビュー」は特に行わずに、この二点に「質問項目」を限定して、「一問一答式」のインタビューを行うことに決めました。そして、実際に、この二点について公園利用者に聞いてみたところ、人がたくさん集まっている公園Aの方がどちらの点についても高く評価されていることがわかったとします。皆さんは、予想通りの結果が得られたことに満足して、調査を終了しました。さて、この調査は、十分な調査と言えるでしょうか?
 残念ながら、言えません。なぜかというと、この調査は「現地」の複雑さを無視して、調査課題を外側からの理解だけで、「立地条件」と「公園の設備」に限定してしまっているからです。では、この調査に「インフォーマル・インタビュー」を組み込んだ場合を想像してみましょう。皆さんは、まず公園にいき、しばらくそこで遊んだりしながら、観察をつづけました。そのうちに、公園Aの利用者と言葉を交わすようになり、公園Aを選ぶ理由が多様で複雑であることに気づき始めます。
 たとえば、幼稚園児の子供を持つAさんは、公園Bの近くに住んでいるのに、わざわざ公園Aに来ているようです。話を聞いていると、Aさんは自宅近くには同じ年頃の子供をもつ家庭が少ないので、自宅近くの公園Bではなく、少々遠くても小さい子供が集まっている公園Aに来るようになったようです。また、小学生と話をしてみると、公園Bは最近中学生のたまり場になっているので、なんとなく公園Aに来るようになったようです。
 あくまで想像の例にすぎませんが、後から見た調査の例では、「インフォーマル・インタビュー」を行うことによって、「公園利用と子育てのネットワーク」あるいは「公園利用における小中学生の棲み分け」という、当事者にとってより重要な問題を発見したことになります。このように、現地の観察と一体になった「インフォーマル・インタビュー」は、調査者の解釈枠組みの押しつけを避け、当事者にとって何が問題となっているのかを知り、それによって調査の「問い」を立てていくためにきわめて有効な方法なのです。

 

2-4 フォーマル・インタビューのねらい

 逆に、一問一答式のフォーマル・インタビューは、インフォーマル・インタビューや現地の観察、あるいはオンラインやライブラリでの文献調査などによって、「問い」と「仮説」を明確にした後で、それが本当に正しいかを検証する手段として行うことで、その有効性がより高まります。というよりも、フォーマル・インタビューは質問項目が明確に決まっていることが前提ですから、インフォーマル・インタビューを含めた「下調べ」なしで行うことは不可能なのです。つまり、フォーマル・インタビューは、先に述べた「何を聞けばいいのか」「誰に聞けばいいのか」「どのような聞き方をすればいいのか」という3点が明確になっていて、はじめて実施できるものなのです。
  この点については、オンライン調査や文献調査なども含めた「下調べ」で、調査テーマ一般に関わる知識を深めていくことはもとより、「自分で調べればわかること」は事前に調べて、調査項目から除外しなくてはいけません。そもそも、特定の人を選んであらためて話を聞かせてもらうということは、「<その人でなければわからないこと>や<その人にこそ聞いてみたいこと>があるからに他なりません」(佐藤、2002,p.251)。ですから、誰にでもわかることや、その人に聞かなくてもわかることについては自分で「下調べ」をし、わざわざ相手に質問することは避けなくてはいけません。そうした、「下調べ」をしないまま話を聞きにいっても、実のあるインタビューにはなりませんし、そもそも、自分で調べればわかることをわざわざ時間を取ってくれた相手に聞くのは失礼にあたります。
 したがって、「質問項目のリスト」を適当な思いつきで準備してあるだけで、それがフォーマル・インタビューになると思うのは、大きな間違いです。「質問項目のリスト」が出来上がるまでには、インフォーマル・インタビューや観察、その他の「下調べ」の積み重ねが必要であり、そうした準備のない「質問項目のリスト」は無意味だということです。「下調べ」によって生まれてきた「問い」と「仮説」を具体的な質問項目にし、その問いについての自分たちの予想が妥当かどうかを検証するのがフォーマル・インタビューのねらいです。

 

2-5 インタビュー調査の実施にあたって
 さて、このようなインタビュー調査も当然ながら、人々との接触を伴うものですから、調査を進めていく上で、相手への様々な配慮が必要になります。以下では、それらの点について、一般的なことを述べていきます。しかし、インタビュー調査は常に相手との関係によってできあがっていくものですから、具体的な状況に即してその都度、配慮すべき点が様々な形で生じてきます。したがって、インタビュー調査の実施にあたっては、その調査に問題がないかをくれぐれも注意し、教員に相談しながら行うようにして下さい。

A.インタビューの依頼
 上で例にあげた「公園」のような事例では、インフォーマル・インタビューと観察が一体になっていますが、全ての調査地で、そのような「インタビュー」が可能なわけではありません。たとえば、お店や役所などで話を聞きたいときに、仕事中の人に対して「日常的な会話」を持ちかけるのは、ただの迷惑です。そうした場合には、インフォーマル・インタビューであっても、先方への依頼、アポイントメントの獲得、などの事前の手続きが必要になる場合もあります。
  また、フォーマル・インタビューのときには、依頼・アポイントメントは必須です。インタビューの依頼は、口頭や電話で行うこともありますが、できるだけあらかじめインタビューの趣旨についてまとめた依頼状を用意しましょう。
 依頼状には次のような点を記載します(佐藤、2002,p.265)

 ・自分の身分、所属、連絡先
 ・調査全体の意図、仮説の概要
 ・なぜ、相手を聞き取りの対象として選ばせてもらったかという点についての簡単な説明
 ・質問内容の概要、特に質問したいことのポイント
 ・公表する際の発表形態
 ・誰がインタビューするか(複数でする時には、その理由と他のインタビュアーの氏名と身分)
 ・インタビューのおおよその所要時間

B.インタビューの開始時
 実際のインタビューの際には、依頼文の内容をもう一度確認します。特に、調査成果を発表する際のプライバシーの確保について、収集したデータの取り扱いについては、そのルールを確認する必要があります。研究目的以外で使うことはないこと、調査対象者のプライバシー情報を外部に出すことはないこと、答えたくないことについては回答を拒否してもらって構わないこと、など、相手の不安要素を取り除くように配慮します。また、インタビューの内容を録音したい場合は必ず、ここで許可をもらうようにしましょう。許可なしの録音は調査のモラルに反しますし、インタビュー調査は調査者と対象者との信頼関係を前提にして行われるものです。

C.インタビューの最中
 状況が許せば、メモを取りましょう。実際にやってみると分かりますが、インタビューをしながらメモを取ることは、非常に難しく、どうしても乱雑なものになりがちです。これはある程度仕方のないことなので、乱雑でも良いので、話の流れとポイントを後で把握できるように、なるべく自分にわかりやすみメモを心がけます。また、調査項目の確定していないインフォーマル・インタビューの場合は、まずは相手にできるだけ自発的にしゃべってもらうことが重要になります。これは、相手の自発的な話のなかにこそ、当事者である相手にとって重要なことがらが含まれていることが多いからであり、そうした発見が、自分たちの「問い」を明確にするのにきわめて重要だからです。そのためにも、インフォーマル・インタビューの最中には、特にその場の雰囲気づくりに配慮し、相手の緊張感を取るための配慮をして下さい。

 

参考文献
北澤毅・古賀正義編(1997)『社会を読み解く技法−質的調査法への招待』福村出版
佐藤郁哉(2002)『フィールドワークの技法』新曜社
小池和男(2000)『聞きとりの作法』東洋経済新報社